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田中良紹(ジャーナリスト)
田中良紹
(ジャーナリスト)

1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同年(株)東京放送(TBS)入社。

ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。

1990年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。

Commons:2009.1.22 from田中良紹の「国会探検」

日米の政治リーダーは正反対

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1月21日未明に行われたアメリカ大統領就任式をテレビで見ながら、全く正反対の日米の政治リーダーについて何がそうさせるのかを考えた。

オバマ新大統領の就任式は初の黒人大統領の誕生という意味で、はじめから十分に歴史的意味を持っていたが、就任演説の内容にばかり異常な期待を寄せるメディアの報道に「うるさい」を通り越して辟易していた。ところがオバマの演説はそうしたメディアの浅はかさに肩すかしを食わせるように、パフォーマンスを意識しない「重心の低い」演説だった。

新大統領の誕生を熱狂で迎えようとしていた国民には心の高揚に冷や水を浴びせられたかもしれない。私には始めから終わりまでアメリカが直面する現実の困難さを訴え続けた演説に聞こえた。勿論「希望」や「再生」という言葉でアメリカは困難を克服出来ると夢を持たせ、そのため国民に「責任」を求めた。しかし私の耳に残っているのは「謙虚」という言葉である。演説の冒頭でオバマはそれを使った。

アメリカに立ちふさがる壁について、オバマは謙虚に自分たちの過ちを認めた。金融危機を「一部の強欲で無責任な人々」のせいにするのではなく、それを許した国民全体の責任を問うた。アメリカが信じてきた「市場」が万能でないことを認めるべきだと言った。大きな政府とか小さな政府という「政策」や「イデオロギー」を振りかざすより、移民や劣悪な環境の下で働いてきた名もなき労働者が国を作ってきた事を国民に思い出させようとした。安全保障を巡っても「我々の安定は謙虚と自制からもたらされる」と発言して、ブッシュ時代の単独行動主義やイデオロギー主義から脱することを宣言した。

そもそも1年前に私はオバマを全く評価していなかった。「イラク戦争に反対」が唯一の「売り」で、政治力は全くの未知数である。民主党左派と若者に熱烈に支持されていたが、政治は現実そのものだから、理想主義者がリーダーになることは危険である。共和党陣営と同じようにヒラリー・クリントンが民主党大統領候補になると思っていた。そして共和党候補がマケインならばヒラリーが勝つ、オバマとマケインならマケインが勝つと予想していた。

ところが選挙資金の獲得でオバマがヒラリーを上回った。その時には共和党がヒラリーを勝たせないようにオバマに企業献金を回したとの情報があり、マケイン勝利のためにはあり得る話だと思っていた。共和党の思惑通りオバマが大統領候補になり、本選挙ではマケイン有利と見ていたら金融危機が起きて情勢は一転した。その過程でオバマが理想主義とは異なる現実主義者であることが分かってきた。「反戦」でイラク戦争に反対した訳ではないことも分かった。しかしそれでも政治力は未知数である。

私がオバマに対する評価を変えたのは人事である。人事は最高の権力行為であるから権力者の資質が如実に現れる。オバマの人事は現実主義そのものだった。自分を支えてきた民主党左派を切り捨て、共和党とヒラリー人脈を配置して「挙国一致内閣」を作りあげた。これは本人に相当な自信がないと出来ない。初めて彼の政治力を見る思いがした。そして今度の就任演説である。再び「地に足の着いた」、「重心の低い」政治を行う人物であることが認識出来た。イデオロギーを振り回すような単細胞ではない事が良く分かった。

一方、日本の政治リーダーについては最初の人事で絶望した。安倍元総理の人事も「お友達内閣」と揶揄されたが、それ以下の人事であった。聞くところによると、すぐに解散をするつもりで論功行賞人事を行ったという。1ヶ月だけの大臣ポストのプレゼントという訳である。人事を弄ぶ話だ。前任者が「背水の陣」と言い、それでも政権を続けることが出来なかった状況を真剣に考えていない。

人事は一つ間違うと権力を失う恐ろしい行為である。人事に苦悩する権力者の姿を見てきた経験から言うと驚くほどの脳天気ぶりだった。しかもこの最高権力者は人事の中身よりパフォーマンスに力を入れた。自分で組閣名簿を読み上げてみせたのである。その事に何ほどの意味があるのだろうか。呆れるしかなかった。

国会での初の所信表明演説は、所信を表明するよりも、野党を挑発するための演説だった。国民に対しての演説ではなく、次の選挙に勝つための策略を披露しただけの話である。日本には明治から92人の総理が誕生したが、おそらく最低の所信表明演説ではなかったかと思う。とにかくこの総理の頭には「どのような政治を行うか」よりも「選挙に勝つ事」しかなかった。

金融危機対策と称して打ち出される「政策」もすべては選挙を軸に考えられた。だから何か批判されるとそれをうち消す事に躍起になり迷走する。弱みを見せると選挙に不利と思うらしく強がってみせる。オバマの「謙虚さ」とは正反対である。

その調子だからオバマのように国民と共に難局を乗り切ろうとする姿勢にならない。「私が景気を立て直します」。「私の景気対策は世界最大規模です」。「私が世界で最も早く景気を回復させてみせます」。要するに「私が国民にしてあげる」のが政治だと思っている。7割の国民がそれを信用していないのに、「してあげる」と言い続けている。

世界はアメリカに商品を売り、アメリカが消費して赤字になった分世界は黒字になる。黒字のドルを運用したい世界にアメリカは金融商品を作って売った。それで経済がバランスしていた。それが崩れたのだから、アメリカが立ち直らないと他も立ち直れない。最初に景気が回復するのはアメリカで、日本が最初だなどと誰も信じていない。それなのに誇大な物言いをして強がって見せるのは、やはり選挙の事しか考えていないからだ。要は自民党と自らの保身のために「政策」を打ち出している。

オバマはケニヤ人留学生とアメリカ人女性の子供として生まれ、若い頃にシカゴの黒人貧民街で地域活動に取り組んだ。複雑な生い立ちと社会の底辺を見てきた男が最高権力者にまで上り詰めるところにアメリカの「底力」がある。オバマの現実主義はその底辺で培われたものなのだろう。ぎりぎりの状況では理想論もイデオロギーも役には立たない。それがオバマという政治家を育てたのではないかと演説を聞きながら思った。

日本では世襲の総理が続いている。誰も日本の底辺など知らない。恵まれた環境で柔らかな現実しか知らないから考えも柔らかになる。せいぜいがイデオロギーを振り回して格好を付けてみせる程度だ。イデオロギーで問題が解決できるほど政治は単純でない。世襲がまかり通る日本では、いかに頭が良くても性格が良くても危機に立ち向かえる人材は育たないのではないか。オバマの演説を聞きながらそう思った。

しかしオバマに権力者の資質があることは分かったが、現実はそれ以上に過酷である。資質があるからと言って問題を解決できるとは限らない。こちらは厳しい現実に立ち向かうオバマの政治力を見守るしかないのだが、日本の最高権力者はオバマと面会することに力を入れているらしい。面会したからと言って日本の経済が立ち直る訳ではない。これも選挙のためだけとしか思えないが、そんな意味のないことを繰り返す政治には終止符を打ち、少しは「地に足の着いた」、「重心の低い」政治が実現して貰いたいと思うばかりである。

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